真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
「――今、なんと?」
「だから、あたしが好きなのは、初めからずっと幸村なの! なんで昌幸さんが好きだなんて勘違いしたかは分かんないけど、昌幸さんにはきちんと断ってるから」
幸村はかつてないほど目を丸くして、千恵をまじまじと見つめる。千恵はそんな幸村に、今度は自分から抱き付いた。
「幸村が向こうの世界を捨てられない事も、こっちで色々負担を掛けるのも、奥さんがどうとか……全部分かってる。さっきも話したけど、すごく悩んだ。その上で好きだって、一緒にいたいって思ったんだよ」
「そんな……それでは、拙者が甘えているだけです。千恵殿はそこまで覚悟してくれているのに、拙者は何も捨てず与えられるだけなんて」
「いいよ。あたしにあげられるものなら、全部あげる。その代わり……幸村を、あたしにちょうだい」
長い静寂の後、千恵の腰に幸村の腕が絡む。触れ合う体温もぶつかる視線も熱くて、千恵は目を閉じた。
「……この世界では、千恵殿がただ一人の愛しき人です」
唇と共に降ってくるのは、ほろ苦い愛の言葉。千恵には、信之の言うように幸村をさらう自信などない。しかしこの瞬間確かに通う心に、永遠という言葉を望んでいた。