真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
千恵の爪先がぴんと伸び、絡む幸村の腰から落ちるのはそれからすぐだった。同時に幸村も達し、千恵の中に熱いものが注がれる。うっとりと浸る千恵に、幸村が勢いで中に出した事を平謝りするのは、しばらく後の事であった。
幸せの余韻は、次の日になっても千恵の心に残り気分を軽くする。会社の人間は楽しそうな千恵に好感こそ抱いても悪意はなかったが、ただ一人、事情を知る美穂は憂いを覚えていた。
「千恵、あんた悩みが全部解決したんでしょ」
昼休み、千恵を誘って昼食を取り、美穂は単刀直入に訊ねる。向かい合う千恵も美穂相手では決まりが悪く、顔を曇らせながら頷いた。
「……うん」
「その様子じゃ、幸村と縁を切った、って訳じゃなさそうね。ねぇ千恵、あの人既婚者なんでしょ? そんなのろけた顔してていいの?」
美穂が咎めるのは、自然の事である。もし千恵が自分と同じ立場の友がいたら、間違いなく咎めるだろう。平成の世において、千恵の結論は決してまっとうな答えでないのだから。
「確かに幸村は、悪そうな人に見えないよ。けれど……ずるい奴だと思う。千恵なら立場をわきまえて面倒にならないからって、甘えてるように見えるよ」