真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第11章 拙者は幸村である。職はまだない。
しかし悩んでいる内容は、聞かなくても分かっていた。幸村を死に至らしめる戦、大坂の陣が迫っていたのだ。武士として生きるか、平成に暮らすか。幸村が選んだのは、永遠の別れであった。
幸村は、何も告げずに平成から姿を消した。何の変哲もない日に幸村が意志を固めた事は、千恵自身も気付いていなかった。幸村の部下である忍び、猿飛佐助の息子・夜助が真意を知らせてくれなければ、クローゼットが閉じた後、千恵は混乱し途方に暮れるばかりだっただろう。
「奥さま、幸隆さまがお待ちになられていますが……」
すると今度は、その夜助が顔を出す。夜助はまだ七つになったばかりの幼子。戦国時代では、そんな子どもでも大人と同じように働くのだ。しかしクローゼットが閉じてしまったため、彼は戦国時代に帰れなくなってしまっていた。
夜助がこちらに来ていたのも、元はと言えば千恵のため。千恵は夜助を引き取り、育てると誓った。血は繋がらない他人ではあるが、息子の幸隆と同様に可愛がって面倒を見ていた。
「おかあさん、まだ?」
夜助の後ろには、夜助より一つ年下の娘、千晶も控えていた。