真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第11章 拙者は幸村である。職はまだない。
新しく借りたマンションは、ファミリー向けの物件のため広々としている。子ども達は自分達の部屋がもらえる事に大喜びし、終始はしゃぎっ放しだった。
荷物を運び、大体の片付けを終えた夜。子ども達を寝かしつけた後、千恵は後回しにしていた自分の寝室の、服や本などの細かな片付けを始めた。
あまり大きな音を立てると、子ども達が起きてしまう。千恵は静かに、そっと備え付けのクローゼットを開いた。
「――え?」
下見に来た時や今日など、千恵は何度か、クローゼットを開けている。その時はなんの変哲もないクローゼットだったはずだが、今は違っていた。
クローゼットの向こう側は、見覚えのない屋敷。そしてそこには、同じようにこちらを覗く、一人の男の姿があった。
「幸村……」
額に大きな傷を作っているが、その顔は見間違えるはずがない。クローゼットの向こう側にいるのは、幸村だった。
「な、なぜ千恵がここにいるのですか!? ここは薩摩で、九度山ではないのですよ!?」
幸村は目を白黒させ、頭を抱える。が、本当に混乱しているのは千恵の方だった。