真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第11章 拙者は幸村である。職はまだない。
「いえ、それはありません。武士の魂を捨てて生きるか、誇りを抱えて死ぬか……秀頼様は二つの分かれ道を前にして、拙者と共に薩摩へ行く事を選んだのです。その先に何があるかは、拙者が一番良く知っています。薩摩に送り届けた事で、拙者の忠義は果たされました」
すると幸村は、両の拳を膝の前に立てると、深く頭を下げる。
「千恵には、散々迷惑と心配を掛けました。長い間優しさに甘え、辛い思いもさせたでしょう。そんな拙者が今さら望むのは、おこがましいにも程があるのですが――これからは、戦国の武士・真田信繁ではなく、平成の人・真田幸村として、この世界で暮らしていきたいのです」
「幸村……」
「千恵。拙者はこれからも、千恵と共に歩んで良いでしょうか?」
千恵は、すぐに座り込み幸村の頭を上げさせると、頬を涙で濡らしながら口づける。答えなど、口に出さなくても決まりきっていた。
「幸村、愛してる」
役目を終えたと言わんばかりに、クローゼットはいつの間にか再び閉じていた。しかし、もう時代を行き来する必要はないのだから、開くよう望む必要はなかった。