真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
「千恵……ごめん」
「今日は先に帰って。後で連絡するから、ね?」
「……人影のないところで話しちゃ駄目だからね。あと、時間には気をつける! それから」
「大丈夫だから、ほら」
なお心配してくれる美穂の情に苦笑いを浮かべ、千恵は美穂を見送る。後ろ髪を引かれながら去っていく姿が見えなくなると、千恵は国親に目を向けた。
「手……離してくれない? 別に逃げたりしないから」
しかし掴まれたままの腕は、離される気配がない。国親はさも聞こえなかったような表情で、そのまま腕を引き寄せ恋人のように組んだ。
「立ち話もなんだから、ちょっと付き合って」
まるで恋人のような扱いに、千恵は眉をひそめる。しかしこれ以上注目を浴びたくはなかったので、ひとまずは国親に付いていく事にした。
国親は、近くのレストランまで足を運ぶ。恋人だった頃は、よくここで食事をしていた。まるで三ヶ月前をトレースするような流れは、忘れかけていた傷を思い出させる。
「なんなの、一体」
つい語気が強まってしまうのも、無理のない事。しかし国親は向けられる視線を全く気にせず、向かいに座る千恵の前髪に手を伸ばした。