真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
「髪、切ったんだ。短いのも似合うけど、俺は前のが好きだったな」
思わず怒号が喉を通りそうになり、千恵はぐっと堪える。そして国親の手を払うと、なるべく感情を抑えて口を開いた。
「あたしにはお似合いの髪型でしょ。失恋して髪を切るとか、今時自分でも馬鹿みたいと思うけど」
「……それ、俺のせいなの?」
目を丸くする国親に、千恵は拳を握る。美穂ではないが、本当に国親を叩き潰してぶっ飛ばしてやりたかった。
「そんな事より、本当に何の用なの? あたしのものは全部捨ててって言ったし、何か忘れ物がある訳じゃないでしょ」
かつて千恵は、国親と同棲していた。今のマンションに暮らすきっかけとなったのが、皮肉にも国親との別れだったのだ。千恵は国親の望み通り、姿を消した。そこまで思い通りにしてやったというのに、当の本人は悪びれる様子もなかった。
国親は店員を呼び、勝手に注文してしまう。いつもの、で未だに通じてしまう事が、千恵の胸をまた抉った。
「髪切ったのが俺のせいだって言うなら、また伸ばしなよ。長いの似合ってたし」
「……あんた、何様のつもりなの」