真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
千恵が自ら捨てた日常であるなら、国親が縋るのも分かる。しかし三ヶ月前、千恵から離れたのは間違いなく目の前の国親だ。ここまでされて何が言いたいのか察せられない程、千恵は疎くない。国親は穏やかな笑みを浮かべると、当然のように言い放った。
「やり直そうよ、俺達。今度は、絶対幸せにする」
「……呆れた。本当になんなの、あんた」
千恵が溜め息を吐きうなだれると、国親はさらに明るく声を掛ける。
「やり直し、っていうか、結婚しよう。ウチに帰ってきなよ。千恵の荷物は、今も捨てずに取ってある。すぐに戻れるよ」
慈愛に溢れた、優しい声。しかしその声が千恵を刺し、忘れかけた今も夢に見るくらい傷付けた事を、千恵は知っている。
『千恵はさ――正直、あいつ以下なんだよ』
「国親、『あいつ』は、どうしたの?」
国親が千恵を捨てて、走った相手。千恵と天秤に掛けて、選んだ相手。顔も思い出したくないため目を閉じながら、国親に訊ねた。
「別れた。というか、あの日に振られた。浮気する奴なんて最低だって」
「それは残念だったわね。国親にとってはあたしが浮気で、向こうが本気だったのに」