真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
「っ、負け犬のくせに、減らず口め!」
男は地団駄を踏むが、昌幸も幸村も、安い威嚇で萎縮するような武士ではない。平然とした佇まいは、かえって男の怒りに火を付けた。
「いくら武士を気取っても、二度と貴様らはこの屋敷を出られぬ身だと思い知れ! 信之……真田伊豆守に見限られたら、野垂れ死ぬだけの屑だとな!」
男はわめき散らすと、足音荒く去っていく。その音も聞こえなくなると、二人はようやく足を崩した。
「全く……秀忠殿が派遣する監視役は、毎回喧しいですな」
「後で信之に手紙書いてやる。あいつのせいでトラウマだーって」
「父上、トラウマなどと向こうの言葉を使っても、兄上が困りますぞ」
二人が笑い合っていると、広間の縁側、庭に繋がるそこから、一人の子どもが顔を出す。彼は九度山の村人。本来なら、監視役と同じく幸村達を見張る役目を持っている者である。
「真田さん、大丈夫だったか? なんだか怖いお役人さんだったから、オラ不安でよぉ」
「次郎、心配をかけたでごさるな。なに、今は幕府に仇なすつもりなどない。後ろ暗い事はないのだから、問題などないでごさるよ」