真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
父親とさして変わらない年の男とはいえ、腰や顔に触れる手は千恵に羞恥を抱かせる。椅子ごしでなければ、混乱は極まっていただろう。千恵が大人しくなるのを確認すると、昌幸は再び口を開いた。
「荷物、預かってもらって助かったぞ。鬱陶しい監視役も帰って、今日はもう自由の身だ」
「あ、終わったんですか……お疲れ様です」
千恵が預かったのは、大量の紐。真田紐と呼ばれるそれの収入を、二人は生活の足しにしているらしい。しかし本来、二人は監視され軟禁される身。内職など禁止されて当然なのだ。
「まあ、見つかっても、どうせ黙認されたものだがな。わざわざ目につくところに置いて、事を荒立てる必要もない。おかげで奴らも、さっさと帰ってくれた」
「大変ですね、蟄居って」
「いや、ウチはいい方だ。信之……徳川方に送り込んだ私の息子が、大分便宜を図ってくれたからな。本来ならば内職はおろか、屋敷内すら自由に歩き回る事も敵わない刑だ」
「え……それ、大分辛くないですか?」
「そりゃ辛いさ。武士としての矜持はもちろん、人間としての尊厳すら奪われるのだからな」