真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
昌幸は軽く話すが、その内容はあまりに重い。千恵が表情を曇らせ俯くと、昌幸は千恵の顎を取り上を向かせた。
「しかし私は今、蟄居より辛い事がある」
千恵の眼前に迫るのは、大きな息子のいる父親とは思えない端正な昌幸の顔。幸村にはまだ備わっていない、色気のある声を耳元で囁かれると、心臓が嫌が応にも跳ねてしまった。
「幸村と一緒の時は大分くだけているのに、私と二人きりだとまだまだ他人行儀だな。礼儀正しいのは好ましいが、我を忘れて夢中になる千恵が見てみたい」
昌幸が息をするように口説くのはいつもの事だが、今日はそんな時に咎める幸村がいない。笑って流すべきなのか、それとも真剣に怒るべきなのか。どれが正しい対処なのか、千恵は答えを見つけられずにいた。
「屋敷に閉じ込められ死を待つだけの私にとって、新鮮な空気は千恵だけだ。千恵だけが私を揺るがし、刺激する――」
昌幸の手が、不意に千恵の唇に触れる。逃げるにも椅子ごと抱きすくめられた状態で、逃げ場はなかった。
「私にもっと刺激をくれないか、千恵」
男らしい指が唇をなぞると、背筋にぞわりと奇妙な感覚が走る。嫌悪とも違うそれに、千恵は耳まで赤くした。