真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
「箱ではない、大事なのは画面だ。不躾な願いなのだがな……」
昌幸は千恵の座る椅子を半回転させ自分の方に向けると、正座し頭を下げる。先程まで千恵をからかっていたとは思えない変わり身に、また千恵は心臓を掴まれる。しかしその掴まれ方は、あまりにも悲しいものだった。
「私は、充分に生きた。蟄居の身となっても、自分の歩んだ道の結末なのだからそれでいい。しかし幸村は違う。あの子に……戦国の世は不可能であっても、せめてこちらで外の世界を感じさせてやってくれないか」
「……昌幸さん」
「私達は、この時代で千恵に頼りきりだ。食事や酒……その他諸々、負担を掛けている。その上外にまで連れて行けと頼むなど、失礼千万であると承知している」
「そんな、あたしは自分に出来る範囲で好きにやってるだけですから、迷惑だなんて思ってません」
「そう言ってくれるとありがたい。その好意に、もう少し甘えてもいいだろうか」
千恵はふと、クローゼットに目を向ける。向こうの屋敷はマンションよりずっと広いが、それだけが世界なのだと思うとあまりにも狭い。普段は悲壮感など微塵も感じさせない二人だが、千恵には同情が生まれていた。