真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
(クローゼットが現代に繋がってなかったら……幸村は、どうやって生きていたんだろう)
関ヶ原から、幸村の散る大坂の陣までは十年以上経っている。本来ならば、その間ずっと屋敷に軟禁される運命なのだ。
「……分かりました」
千恵は椅子から下りると、昌幸の頭を上げさせる。すると昌幸は千恵に抱きつき、頬に軽く口付けた。
「ひゃあっ!」
「心遣い、傷み入る。愛しているぞ、千恵」
甘い言葉やキスに過剰反応して、またからかわれるかと思えば文句も言えない。親愛なのか恋愛なのか、とことん昌幸は分かり難い男である。頬に集まる熱は止められないが、千恵はなるべく平静を装い昌幸が離れるのを待った。
案の定昌幸はすぐに手を離し、足取り軽くクローゼットの方に歩いていく。
「そうと決まれば、さっそく幸村を呼んでこよう。待っていてくれ、千恵」
先程まで見せていた父親らしい顔はどこに行ったのか、少年のような浮かれ声で戻っていく姿に、千恵は苦笑いしながらも温かい気持ちを覚えていた。
(昌幸さんって、何だかんだで良い人だよね。幸村が羨ましいな)