真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
よそ見して脇道に逸れそうな二人を押さえながら、千恵も改めて街に目を向ける。
(街の景色なんて当たり前のものだと思ってたけど……一つ一つに、発明した人の想いがあるんだよね。これって、すごい事だったんだなぁ)
二人と一緒の道は、いつもよりずっと新鮮で、千恵にも温かい気持ちが生まれる。日曜日の込み合う街、きっとこんなに楽しみながら歩いている人間はいないだろうと思いながら、足取り軽く千恵は進んでいった。
しかししばらくその辺りを歩くと、昌幸が溜め息を吐き、肩を落とす。そして千恵にしなだれかかると、子どものように駄々をこねた。
「祭りでも戦でもないのに、いくらなんでも人が多すぎるな。少し休むところはないか? なあ千恵ー」
「年ですな、父上。家に帰ったら、つぼでも押しましょうか」
「年ではない! 私は繊細で思慮深い故に周りの影響を受けやすいのだ」
「父上が繊細ならば、世の中の人間は皆ノミの心臓です。表裏比興の者が言う言葉ではござらんよ」
幸村はさして心配もせず、昌幸を引き剥がす。そして小さな溜め息を漏らすと、辺りを見回した。