真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
幸村は男達が見えなくなるのを確認すると、車の中にいる店員に目を向ける。団子に纏めた髪は清潔ながら色気も出し、控え目な化粧も紫がところどころに入って女性の品格を醸し出している。エプロンの上からでも分かる豊満な体つきを見れば、男達が何を思ってこの女に絡んだのかは明らかだった。
「大丈夫でごさるか? 怪我はないだろうか」
店員は幸村の格好や口調に一瞬面を食らうが、すぐに屈託のない笑みを見せる。そして頭を下げると、幸村に手を差し出した。
「ありがとう、助けてくれて。あたし美人だから、よくああいう輩に絡まれるんだ。慣れてるから大丈夫」
幸村は彼女と握手を交わし、車の中を覗く。大丈夫とは言うが、幸村の見た事のない薄い皮らしき食べ物や赤いソースが、中に散らばっていた。外も、置き看板がへこんでいる有様である。
「女だてらに一人で屋台を営むのは、実に苦労するだろう。よろしければ、片付けを手伝おうか」
「え? いや、お客さんに悪いよ。大丈夫、お金取られたり、セクハラはされてないから」
「なに、これも縁でござる。あなたのように精進する人間が損をするのは心苦しい、ぜひ手伝わせてくれ」