真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第1章 クローゼットの向こうは戦国時代でした。
真田幸村。それは、平成の世にも広く伝わる、戦国時代最後の英雄――日本一の兵である。徳川と豊臣の決戦である大坂の陣にて、徳川幕府の始祖・家康を追い詰め、あわや首級を取るまでに迫った武勇は、平成の世でも人を魅了する。
そしてその父である昌幸もまた、領地である上田を寡兵にて家康から守り抜き、家康が恐れる男の一人として名を残していた。
そんな英傑と、男の一人も捕まえられない千恵が繋がるきっかけとなったのは、現在暮らすこのマンションだった。好条件であるが格安のこのマンションには、幽霊が出ると噂があったのだ。しかし千恵は、その他の好条件と安さに負けて部屋を借りた。そして引っ越し当日、寝室に付いていたクローゼットを開いたら――
そこが戦国の世、真田父子が徳川の命により蟄居となった九度山に、繋がっていたのだ。
クローゼットの向こうに広がるのは、明らかに鉄筋コンクリートではない木造の部屋。そして千恵と同じく驚愕しながらこちらを覗き込んでいたのは、精悍な男だった。
「な、な……なによ、これ!」
「な、喋った!? 夢幻ではごさらぬのか!?」