真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
「今日だって、拙者をだしにして外出を頼んだとか。千恵殿の性根が優しいのを利用して、私欲のために……」
「それは違う! 昌幸さんは、本当に幸村を心配してあたしに頼んだんだよ」
「そう思わせるまでが、父上の策なのです。千恵殿のように真っ直ぐでひたむきな方が、何より騙しやすいのですから」
幸村は気落ちしたように小さな声で話すが、千恵にはどうしても納得がいかなかった。確かに昌幸が食えない性格である事は、千恵も承知している。だが幸村までも利用して謀計を立てる人間だとは、とても思えなかったのだ。
「幸村、お父さんの事、そんな風に疑っちゃ駄目だよ。悪巧みはしても、その理由はきっと幸村のためだと思うよ? いいお父さんじゃない」
「千恵殿は、知らぬから言えるのです! 良き父上である事と、油断できない事はまた別なのですよ!」
強く言われてしまえば、千恵も返す言葉が見つからずうつむいてしまう。思いの外暗くなる千恵を見て、慌てて幸村は首を振った。
「いや……千恵殿を責めている訳ではありません。ただ拙者は、千恵殿を拙者達のせいで不幸にしたくないのです」