真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
「不幸だなんて、思わないよ。あたし……国親に振られて、一番荒れてた時に幸村達に会ってさ……気が紛れる、って言ったら変だけど、すごく元気になれたんだよ」
「千恵殿……」
「今日もね、ただの散歩なのに楽しかったよ。幸村達が色んな所を見て驚いてると、あたしも新鮮な気持ちになれたの。幸村が一人で駆け出した時は、びっくりしたけどね」
今日を思い出すと千恵はつい笑みがこぼれてしまう。気持ちが前を向くと、顔も自然を前を向いていた。
すると肩を掴んでいた幸村の手が、頬に触れる。幸村は小柄だがその手は男らしく大きく、千恵はまた顔を桜色に染めた。
(ち……近い! どうしよ、意識してるのバレるって!)
夕日に染まる紅の空は顔色を隠してくれるが、触れる熱だけは誤魔化せない。目をそらしても視線は刺さり、千恵をうろたえさせた。
「……千恵殿は、拙者の恩人です。拙者達のような者が、その心を奪って良いはずがありません。父上にその分別はありませんから、くれぐれもご注意を」
しかし幸村は、すぐに手を離すと千恵に背を向ける。幸村の親切心は、千恵にも良く分かる。しかしそれは、千恵の心を深く抉った。