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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。

 
「そんな事言われても……好きになったらしょうがないじゃない」

 幸村の背中が妙に遠く感じて、千恵の口は苦しさから逃れるように気持ちを漏らしてしまう。その消えてしまうような一言で幸村が目を見開いた事に、千恵は気付いていなかった。

(いっそ幸村が、奪ってくれたらいいのに……)

「――拙者が言いたかったのは、それだけでごさる。あまり時間を取ると、父上が飽きて何をしでかすか分からぬし、そろそろ戻りましょう」

 振り返った幸村は、壁を感じさせない好青年である。しかしそれがかえって特別ではないのだと思わせるようで、千恵の心が再び浮上する事はなかった。

「そうだね、戻ろ。心配してくれてありがとう、でも大丈夫だよ。今は誰かを好きになるとか、そんな感じじゃないし」

 だが千恵はそれを隠し、出来る限り口角を上げて元気良く答える。泣きそうな目を擦って誤魔化すと、足を急がせた。

 昌幸は紙袋と封筒を持ったまま、真紀と共にベンチに座って幸村達を待っていた。千恵が声を掛けると、二人は立ち上がり手を振る。

「おお、ようやく終わったか。早く帰るぞ、千恵。私はこれを早く食べてみたいのだ」
 

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