真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
昌幸は紙袋を突き出し、期待の目を向ける。袋から漂う異国の香りは千恵の胃も刺激し、腹の虫を鳴かせた。
「あたしもメキシコ料理って食べた事ないなぁ。ちょっと気になるかも」
「知らない味を知ると言うのは、いくつになっても変わらず楽しみなものだ。まあ私が一番知りたい味は千恵の」
「父上、その先は言わせませんぞ」
幸村は昌幸の口を塞ぐと、改めて真紀にお辞儀する。
「真紀殿、今日は非常に貴重な経験をありがとう。帰り道、くれぐれも気を付けられよ」
「いいのいいの、あたしも売り上げがっぽりで儲かったし。じゃ、また今度」
真紀は幸村、昌幸に千恵にも全員の頬に軽くキスをすると、驚く三人に笑顔を振り撒いて去っていく。悪い人間ではないがその奔放な気性は、平成の世に生きる千恵にとっても驚愕だった。
「……女の人にキスされたの、あたし初めてだよ」
「人助けをするといい思いが出来るという例だな」
「父上!」
満更でもない昌幸に対し、幸村は妙に厳しく怒鳴りつける。しかし昌幸は聞く耳持たず、大あくびして伸びをした。