真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
気が付けば、幸村と昌幸、屋敷の主人が共々姿を消している。屋敷の外から観察する九度山の村人や、実質意味のない徳川方の監視役はそれに気付いていない。だが共に屋敷で過ごす家族が、それに気付かないはずがなかった。
日も落ち、人々が寝息を立てた頃、幸村の寝室に一人の女性が現れる。
「信繁様、よろしいですか?」
白い肌と細い体つきが目を引く彼女は、竹林院。幸村――信繁の正室である彼女を、信繁が拒否する理由はない。遅くに現れた事を不思議に思いながらも部屋に引き入れると、彼女は決まりが悪そうに口を開いた。
「信繁様……このような問いは差し出がましいと思うのですが、答えていただきたいのです。今日一日、どこにいらっしゃったのですか?」
「それは……」
信繁の頭に浮かぶのは、平成の景色とタコスの香り。そして夕焼け色に染まりながら微笑む、千恵の姿だった。
「わたくしは、信繁様の妻です。屋敷から抜け出す手段があったとしても、敵に知らせるつもりは毛頭ありません。しかし……最近はお姿をお見かけする時間があまりにも少なく、不思議に思うのです」