真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
美穂はいやらしい笑みを浮かべ、千恵の脇腹をつつく。そしてさっそく一本缶ビールに手を付けると、また部屋を見渡した。
「冗談はともかく、ここって幽霊が出るんだっけ? そんな気配しないけどな」
「まあ、幽霊は……見た事はないよ」
まさか見たのは生きた戦国武将だと言えず、千恵は言葉を濁す。そして誤魔化すために、話を切り出した。
「そういえばさっき、どうして変な顔してたの?」
「ああ……なんか千恵の部屋の前に、男が立ってたのよ。声掛けたら逃げてったんだけど、心当たりない? 小柄で、女みたいな顔してるアイドル系の男なんだけど」
「小柄……?」
ふと思い浮かんだのは幸村だが、幸村は女に間違われる顔つきではない。そうでなくとも、幸村は先ほど戦国に帰したのだ。平成にいるはずがなかった。
「いや、分からない」
大柄であるなら国親という可能性もあるが、国親なら美穂も顔を知っている。千恵に、心当たりは全くなかった。
「分からないなら気を付けた方がいいよ。戸締まりはしっかりしときな」
「う、うん」
他の住人の知り合いが部屋を間違えたのでは、と千恵はさして深く考えなかったが、ひとまず頷く。