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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。

 
(千恵殿は、どうしてここまで良くしてくださるのだろうか。拙者を助けても、一文にもならないだろうに)

 平成の世にとって幸村は異物でしかなく、助けても何か変わる事はない。恩返しするにも、しようがないのが現状なのだ。しかし千恵に、親切の押し売りするような様子はない。真紀と電話越しに話すその横顔に、幸村はふと竹林院の瞳を思い出した。

「――はい、それじゃ十一時に。はい」

 千恵は電話を終えると、幸村に屈託のない笑みを浮かべる。

「真紀さん、すごいテンションで喜んでたよ。十一時にこの前の場所で待ってるって」

「あ、ああ」

「幸村、やけに今日そわそわしてるけど、大丈夫? なんか変だよ」

 大事な話なのだから多少緊張するのは分かるが、それにしても今日の幸村は落ち着いていない。千恵が幸村の顔をのぞき込むと、幸村は驚き飛び退いた。

「ち、千恵殿!? なんでごさるか!? 拙者は、普通にござる!」

「いや、怪しいよ……心配だなあ、なんか変な話しても大丈夫なように、言い訳考えとかないと……」

 千恵は腕を前に組み、考え込もうとする。が、それは響く声に遮られた。
 

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