真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「ちょっとあんた、あたしの千恵に何してんのよ!」
二人の間に割って入ってきたのは、眠っていたはずの美穂だった。
「美穂、どうしたの!?」
「どうしたはこっちのセリフよ! 起きたら千恵いないし、外見たら変な男と一緒だし!」
美穂は警戒した目で幸村を眺め、呟く。
「昨日の男とは、別人みたいだけど」
「昨日?」
幸村がその言葉に一瞬眉をひそめると、美穂はますます疑い深く幸村を睨む。
「ちょっと待って! 美穂、この人は変な人じゃなくて、あたしの知り合いなの。身元は保証するから、大丈夫!」
千恵は幸村を庇うように背にすると、慌てて美穂に弁明する。美穂はそれでも疑惑を解こうとしなかったが、幸村が丁寧にお辞儀すると、ようやく警戒を緩めた。
「お初にお目にかかります。拙者、千恵殿の友……いえ、知り合いの真田幸村と申します。以後、お見知りおきを」
「真田幸村? 冗談みたいな名前ね」
「ゆ、幸村のお父さん、日本史マニアなんだよ! それで戦国武将みたいな名前をつけたんだって」
千恵が慌ててフォローする姿に、美穂は溜め息を漏らす。