真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「千恵見てたら、ホントに知り合いだってのは分かったわ。まったく、昨日の今日で変な男見たから、何事かと思ったじゃない」
「あの……変な男とは一体? まさかあの大柄でいけ好かない男が、また千恵殿に纏わりついているのでしょうか」
「国親の事、知ってるの?」
「前に一度、追い払った事があります」
美穂は幸村と千恵を交互に眺めると、顎に手を当て考え込む。そして小さな溜め息を吐くと、幸村に真っ直ぐな目を向けた。
「……国親じゃなくて、別の男よ。背丈は幸村さんと同じくらいで、アイドル顔の可愛い系。幸村さんも見かけたら、気をつけてあげて」
「それはもちろん。千恵殿を不幸にする悪い輩は、拙者が全て排除してみせます」
「私は、葛西美穂。よろしくね、幸村さん」
美穂はにこやかに挨拶すると、千恵に耳打ちする。
「千恵の好きな人って、この人でしょ」
「み、美穂!」
「静かに! せっかくだもん、話させてよ」
本人を目の前にすれば、幸村が世間知らずな事はすぐに分かってしまう。フォローで頭を悩ませる間に、美穂は勝手に話を進めてしまっていた。
「ところで幸村さん、朝食は? まだなら、一緒にどうかな」