真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第1章 クローゼットの向こうは戦国時代でした。
「拙者は……真田、幸村と申す。女人、ここは関ヶ原の際石田三成に荷担した罪のため、真田一族が蟄居を命じられた屋敷である。どのようにこの場を繋げたかは分からぬが、平民の立ち寄る場ではござらん。即刻退去せよ」
「真田……幸村ですって!?」
その名前は、生まれてこの方日本史に興味のない千恵でも知る、歴史上の人物であった。警戒し偽名を使ったにも関わらず、その偽名が後世に浸透していた事など、幸村――信繁にとっては思いもよらぬ誤算である。しかし、とにかくこの頃の千恵は、幸村が何をした人物までは知らなかったが、とにかく遠い時代の人物である事は理解していた。
クローゼットの向こうは、戦国時代。マンションに出てくる幽霊の正体も、その瞬間にはっきりと分かった。念のため頬をつねってみるが、走る痛みは今目の前の風景が現実だと知らせてくれる。信じがたい事ではあるが、信じるしかなかった。千恵は今、過去と邂逅しているのだ。
千恵はすく、と立ち上がり、壁の穴を通り部屋に戻る。そしてクローゼットを閉めると、大きく深呼吸した。
そして、もう一度思い切りクローゼットを開いてみる。するとまた、幸村と名乗る男と目があった。
「えっと……真田、さん? ちょっと、こっち来てもらってもいいですか?」