真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第1章 クローゼットの向こうは戦国時代でした。
どんな原理かは知らないが、クローゼットと掛け軸の裏の穴は繋がってしまった。そして、塞ぐ方法は皆目見当がつかない。となれば、まずは混乱を収め、向こうにも状況を把握してもらう事が第一であった。
幸村はしばらく不審がっていたが、先に千恵が向こうとこちらを行き来していたのを見ている。恐る恐るだが、穴を抜け――幸村が及び知らない平成の世へと、足を踏み入れた。
「これは……?」
幸村は千恵の部屋をぐるりと見回すと、大口を開いて硬直してしまう。コンクリートの壁、そこに掛かる時計、置かれているパイプベッドにテーブル、クッションや、まだ片付けの済んでいない段ボール箱一つに至るまで、幸村からすればオーバーテクノロジーなのだ。声を失うのも、当然であった。
もっともそれでも、ここが未来の世界であるという話はなかなか信じて貰えなかった。奇術、幻、夢、魔法――そんな想像が頭を巡っても、未来に来たなどとはとても信じられるものではなかった。
幸村が観念したのは、カーテンの外から、ビルの立ち並ぶ街の様子を見た時であった。この小さな部屋だけではなく、大地自体が変化している。それに理由をつけるなら、未来という話を信じるしかなかった。