真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「おお、それはありがたい! ぜひご一緒させていただきたい」
幸村は人懐こい性格のせいか、朗らかに答えてしまう。その笑顔を見ていると、苦労より喜ぶ姿をもっと見ていたくなり、千恵の不安は薄くなっていた。
(まあ……お昼まではまだ時間もあるし、その間幸村を外に置いとく訳にもいかないし。メキシコ料理って珍しいし、ついでに屋台の事も教えてあげれば美穂も真紀さんも喜ぶかな)
「じゃ、部屋まで戻ろっか。美穂、ご飯作るの手伝ってね」
「えー、私も? しょーがないな」
美穂は文句をこぼすが、その表情は柔らかい。美穂はきっと幸村とも上手くやれる。千恵はそう思えた。
賑やかな朝食を終え、約束の時間まで幸村は美穂に質問責めに合う。どこに住んでいるのか、職は何か、千恵が適当に答えている内に、幸村は「一族揃って冴えない歌舞伎役者」という人間になっていた。
そして千恵は美穂も連れ、真紀の屋台まで向かう。公園のすぐそばで、先週と同じくそこに移動販売車を止めていた真紀。彼女は千恵達に気付くと、大きく手を振り駆け寄ってきた。