真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「いや、あたしにもアレだから、多分元からああいう人なんだよ……それに、取るとか取らない以前に、幸村はあたしのものじゃないし」
「もう、千恵のそういう所駄目なんだよ! 好きならもっとがっついていかないと……」
「だから、いいの! どうこうなりたいって訳じゃないし!」
千恵は考えなく怒鳴った後、俯き呟く。
「……ごめん」
「千恵……」
頑なな千恵の態度に、美穂は申し訳なさと同時に疑問が浮かぶ。好きな男がいれば、結ばれたいと思うのが本能である。そこまで否定するとなれば、よほどの障害があるとしか思えなかった。
「今日は、ここで解散しよっか」
「え?」
「千恵だって休みの日は、ゆっくり休みたいでしょ。また連絡するからさ、今日は解散」
美穂は千恵の肩を叩き、明るく言い切る。八つ当たりのように怒鳴っても、なお気を遣ってくれる友人に、千恵はますます泣きそうになってしまった。
「じゃ、私はちょっとお店見ていくから。またね、千恵」
美穂はそれを見ない振りをして、千恵を送り出す。そして真紀の屋台を覗き、厨房に立つ幸村へ声を掛けた。