真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「あのさ、幸村」
だが幸村の名を呼んだにも関わらず、顔を出したのは真紀だった。
「ごめん、注文はあたしによろしく!」
「あ、いや注文じゃなくて、一個だけ幸村に聞きたい事があって。すぐに済むから」
「ふぅん? だって、幸村」
美穂は今日、ずっと幸村を質問責めにしていたはずだ。まだ何かあるのかと幸村は首を傾げる。そして向き合った美穂は、好奇心ではなく厳しい目を幸村に向けていた。
「あのさ、幸村って……恋人、いや婚約してたり結婚してたりする?」
「――はい。至らぬ身ではありますが、妻は持っています」
悪気なく答える幸村に、美穂は頭を抱え深い溜め息を吐く。そしてその答えに驚いたのは、真紀も同様だった。
「ウソ、幸村って既婚者だったの? 聞いてないんだけど!」
「な、何か問題があるのですか?」
「いや、だったら奥さんに色々悪い事したなーって。ちょっと待って、休みの日にバイトなんかしてていいの?」
「それは問題ないでござる。拙者が出歩いても許すと、確かに言っていたので……」
驚く真紀にたじろぐ幸村だが、その時放った美穂の一言が、全身を凍らせる。
「あんたは良くても、千恵はどうなるのよ」