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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。

 
 美穂はそう呟くと、そのまま背を向け立ち去ってしまう。

「あ、注文はー?」

 真紀は呑気に声を上げるが、幸村は指一つ動かせなかった。美穂が何を憂い、憤っているのか。それをよく知るのは、振り回す幸村自身なのだから。

(お許しください、美穂殿……分かってはいても、拙者は……)

 幸村は心の中で憂うと、頬を叩き気持ちを切り替える。なるべく明るく振る舞い、不思議がる真紀を仕事に戻した。







 夕方になると、一度家に戻った千恵は幸村を迎えに真紀の移動販売車の元へ向かう。後片付けをしていた幸村に声を掛けようとするが、それより先に、真紀に見つかってしまった。

「あ、梅宮さん! ちょうどよかった、話があるの。すぐ済むから、あっちの公園で、いいかな?」

 真紀は千恵の答えを待たず、幸村に車を任せると公園へ引っ張り込む。なんの因果か、先週は幸村と向かい合ったその場所に、千恵は今週真紀と立っていた。

「あのね、妙な事聞くけど……幸村が既婚者って、ホントに?」

 既婚者、という予想外の言葉に、千恵は心臓を大きく跳ねさせる。あまり深く考えないようにしていたが、それは目を逸らしても変わらない現実だったのだ。
 

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