真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「う、うん……そうだけど」
まだ千恵が特に幸村を意識していなかった頃に聞いた話では、正妻はもちろん複数の側室、子どもも共に屋敷で住んでいるらしい。初めは女人禁制である高野山に蟄居の予定だったものが、妻子連れで謹慎するため、わざわざ九度山に蟄居先を変更されたとも話していた。
(苦労しても共にいたいと思うから、一緒に謹慎してるんだよね……皆、幸村が好きなんだ)
側室という存在は千恵にとって馴染みがないが、幸村の時代ならおかしな話ではない。わざわざ真紀に側室の話まで打ち明ける必要はないが、千恵は改めて幸村が遠い存在だと思い知らされた。
「あー……そうなんだ。残念、幸村の事、ちょっといいなーって思ってたんだけど。結婚してる人には手を出さないってのは、あたしの主義なんだよね」
「そ、そう……」
「梅宮さん、奥さんに言っといて。あたしはこんなんだけど、絶対間違いはないから、安心して送り出してやって、って」
真紀は千恵が幸村の妻と面識があると思い込み、頭を下げる。千恵は頷くが、心の中は穏やかでなかった。
(結婚してる人は、好きにならない……そうだよね、そんなの当たり前だ)