真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第5章 拙者は常にその人を兄上と呼んでいた。
「まさか家康からそのような恩情をもぎ取ってくるとは。さすがは我が子、見事な手腕だ」
「義父上や、井伊直政殿の助力があってこその結果です。命は助かったのですから、もうくれぐれも大人しくするように」
向かい合う信之は、父と似た凛々しい顔つきと、策謀に長けた父にはない瞳の誠実さが輝いている。そしてその体躯は、他を圧倒する大きさ。安心感と威圧感を同時に与えてくるこの姿は、将軍家康の心を動かしても無理のないものだった。
「母上や幸村の妻子は、私が身元を保証します。ご安心召されるよう」
「ふむ、仕方ないな。では少し反省した体を見せるために、出家でもしてみるか」
「それも一興でしょう。赦されたとはいえ、父上に対する家康様の様子は、尋常ではなくお怒りでしたから。三成殿より罪は深いと仰られておりましたよ」
「はっ、奴の腹の肉より重い罪などあるものか。家康に伝えてくれ。また乱が起これば、三度徳川をのしてやるとな」
「そのような事を伝えれば、また切腹の危機に陥りますよ」
信之は昌幸の軽口も、整った顔を歪めずいなす。その腹の深さが、信之一番の強みであった。