たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
意識を取り戻しても、私の目には暗闇しか映りませんでした。その上後ろ手に縛られ、足もどこかに繋がれているようで、動く事すらままなりませんでした。
一体、何があったのでしょう。あまりに突然の事で、悲しみに暮れる余裕すらありません。すると、上の方から扉を開く重く軋んだ音がして、小さな明かりが近付いてきました。
「あなたは」
明かりを持ってやってきた顔に、私は見覚えがありました。去年、私の運命を変えた事件の日に出会った、お志乃と名乗る徳川の忍びでした。
ですが彼女は、女性の格好をしていませんでした。黒装束に身を包む姿は、紛れもなく男性。そして開いた口から出る声も、男性のものでした。
「あんな町中にこんな宝がうろついているとは、粘って残った甲斐があった」
「お志乃さん……男性だったのですか?」
「……普通、まず訊ねるのはそれじゃないだろ。ずれた女だ」
お志乃さんと私の間には、格子がありました。明かりが近付いた事で、私の目にもはっきりと現実が見えました。私は捕らえられ、牢に閉じ込められたようです。