たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
「どうして昌幸様の名を出すのですか。昌幸様は何の関係もありません。私が時雨さんに会ったのは、上田を追放されてからですし」
「上田を追放? なるほど、そういう名目で、安全な場所に逃がした訳か」
一人で納得し頷く彼に、私はもどかしさを覚えます。そして彼は深く頷くと、格子に顔を近づけて言いました。
「確信した。お前は相当溺愛されている愛妾なんだな」
「愛妾……、って、誰の?」
「本当にずれた女だな。お前が真田昌幸の愛妾でなければ、頼まれたって捕らえるものか」
「私が、昌幸様の!?」
彼がどんな計算でそんな答えを導き出したのかは分かりませんが、私は飛躍した言葉に首を振ります。
「違います! 昌幸様が、私のような身よりのない奉公人に愛するはずがありません。あなたの勘違いです!」
「なら、なぜお前に甲賀の忍びがついていた? どうして上田を追放された? あの狡猾な真田の事だ。戦からお前を守るため上田から離れさせ、密かに忍びを護衛に付かせたんだろう」
「私には、そこまで昌幸様に気遣われる理由などありません」
「息子の部屋だろうと構わずに仲良くするくせに?」