たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
「な、なんでそれを知って……」
「俺だって見たくて見た訳じゃない。いつ真田信繁を襲おうかと窺っていたら、そっちが勝手にいちゃつき始めたんだ」
つまり信繁様が襲われた日、信繁様が戻る前から彼はどこかに忍んでいたのでしょう。人に、秘めるべき姿を見られた衝撃に、私は全身の血が引くような思いでした。
「そ、その日はそうですが、でも本当に愛妾ではないんです。昌幸様はお優しいから、私程度の者にも手を差し伸べてくださるだけで」
「愛妾でもないのに気まぐれで手を出すって、それ優しいとは言わない。馬鹿じゃないのか」
「昌幸様の事を何も知らないくせに、悪く言わないでください!」
「はあ……お前もお前で、相当な昌幸信者だな。お似合いな事で」
結局、私が何を言おうと彼が信じて下さる気配はありません。返事がなんの役にも立たないこの状況、私は前にも経験しています。どうせ何を言っても無駄なのですから、私は口をつぐむ事にしました。
「とにかく、お前に利用価値があるのは確かだ。徳川のため、しばらく付き合ってもらうからな」