たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
「ああそうだ、忘れてた」
しかし私が歯に力を入れる前に、彼の声が再び響きました。しかもそれは、天井から。目を向けると、どうやって身を支えているのかは分かりませんが、逆さまになって天井にぶら下がる彼が見えました。
「逃げようとか自害しようとか、無駄な事は考えるな。ここは忍び屋敷、罠は山ほどあるし、監視の目も常についている。今のように不審な動きをしたら、すぐに止めに入るからな」
私の考えは、とっくに見抜かれていたようです。事実、その後私は何度か自害を図りましたがことごとく止められてしまいました。
唯一出来る事と言えば、無理やり取らされる食事を吐き、飢えるのを待つ事のみ。日も当たらない牢の中では何日経ったかも分かりませんが、簡単には死ねず、無意味な時が過ぎました。
じわじわと弱る体にようやく死を感じ取れるようになった頃、その人は現れました。
「これが真田昌幸の愛妾か。可哀想に、こんなにやつれて」
お年を召して貫禄のあるその人に、私は見覚えがありません。するとその人と共にやってきた志乃さんが、私に教えてくださいました。