たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
地上の光が目に入れば、眩しさのあまり目が潰れてしまいそうです。連れてこられたのは、牢から上がってすぐの小さな部屋。私を畳の上に下ろすと、元忠様は屈託のない笑みを見せました。
「困った事があったら、なんでも志信に言いなさい。それと、体は大事にするんだよ。死んだってなんの意味もないんだから、飯はきちんと食べなさい」
この方は昌幸様の敵ですが、悪い人には見えません。私の口からは、自然と感謝の言葉が出ました。
「……ありがとうございます、元忠様」
たとえ彼らが私を許しても、捕らわれご迷惑を掛けた私の罪が消える訳ではありません。本当なら、やはり死を持って償うべきなのだと思います。しかし私は牢から解放されたその日から、きちんと食事を取るようにしました。
がんじがらめになってしまって、どこへ行けばいいのかすら分からなくなってしまった私の草舟。沈むにしても、消えるにしても、絡まる蔦を外さねばなりません。
と、そこで私はふと思い出します。昌幸様の残された和歌の意味、元忠様のように立派な武士ならば、分かるのではないかと。