たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
「あの……」
私は思い切って、元忠様に和歌の話を打ち明けてみました。すると元忠様は目を丸くして黙り込み、そして志信さんと意味ありげに目線を交わし、呆れたように口角を下げました。
「……この子は、ちょっとずれた子なのかな?」
「ええ、お察しの通りです。後は私にお任せ下さい、元忠様」
志信さんが溜め息混じりでそう言うと、元忠様は苦笑いしながら手を振り去っていってしまいます。私は何か、妙な事を言ってしまったのでしょうか。残された志信さんに目を向ければ、彼は呆れた視線を返してきました。
「あのさ……その和歌、元忠様には絶対言っちゃいけない歌なんだが」
「え? な、なんでですか?」
「分かってないなら簡単に意味を教えてやる。『月草の 消ぬべくも我は 迎え往く 弓張る夜半に 千曲を超えて』――これは、たとえ儚く散ろうとも、真田は徳川に弓張り、千曲川の向こうまで追いやってやる、って決意表明の歌だ」
「そうなんですか……」
ようするに昌幸様は、絶対に徳川に勝つから、私の罪など気にせず安心して上田を去れと言いたかったのでしょうか。