たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
「上田での合戦、主に指揮を取ったのは元忠様だ……惨敗してしまったがな」
「あ……それは、すみませんでした」
私から見れば上田の合戦は奇跡の大勝利ですが、徳川から見れば大失態です。ましてや大将であったのなら、責任は桁違いに大きいはず。私を人質に取ってまで昌幸様を脅そうとするのも、道理に適った行動でした。
「その和歌、二度と口にするなよ。真田のにやけた顔を想像して、胸焼けしそうになる」
もし、私が本当に昌幸様の愛妾であったのなら、昌幸様は態度を変えたでしょうか。いえ、きっと変わらないでしょう。実の息子である信繁とて、暗殺者を炙り出す囮にするくらいですから。
しかし、昌幸様に迷惑を掛けただけでなく、元忠様を落胆させたかと思うと、なんだか申し訳ない気がしてなりませんでした。時期を見て上田に帰してくれると仰ってくださいましたが、彼らは私を今すぐ放り出してもいいくらいです。
ですが放り出される事はなく、それからまたしばらく私の徳川での生活は続きました。私に再び変化が起きたのは、すっかり肌寒くなり、雪がちらほらと降り始めた頃でした。