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たゆたう草舟

第7章 伊賀の「しのぶ」

 
 小突かれるように歩かされて中へ入った私の目に映ったのは、考えもしていなかった人の姿でした。

「え……?」

 徳川の武士らしき人達が、数人で囲むその人。それは間違いなく、私の脳裏に十年間焼き付いて離れない、昌幸様でした。

「志信さん、これはどういう――」

「馬鹿、名前を呼ぶな!」

 喉にひんやりと当たるクナイの感触に、思わず身がすくみます。すると昌幸様が眉をひそめ、志信さんに声を掛けました。

「お葉に乱暴するのであれば、こちらも態度を改めさせてもらうぞ」

「……態度を改めるだと? それを言いたいのはこちらの方だ」

 これではまるで、私が人質のようです。ですが状況が理解できないまま、昌幸様と志信さんは話を進めていきます。

「私は信繁の命を捨てる覚悟で上杉と手を切ったというのに、酷い事を言う」

「確かに、こちらの約束は果たしたな。だが……どういう事だ? 今度は羽柴に接近しているようじゃないか」

「私がお前達に突きつけられた条件は、上杉との同盟を破棄する事のみ。その他の動きに、文句を付けられるいわれはないが?」
 

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