たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
「悪い話ではあるまい? お前の器量は、この俺が保証する。信明殿は美人で賢い嫁が貰えて、お前は家を復興出来るのだから、皆喜ぶ話だ。反対する者などいるはずがない」
「殿は、その話をご存じなのですか」
殿――昌幸様。真田家の当主である彼に、身分の低い私が顔を合わせる機会などございません。八年前のあの日は夢だったのか、その後私が昌幸様にお目通りする事はありませんでした。身分を気にせず声を掛けてくださる信繁様が、異端なのです。
しかしそれも、家臣の婚姻となれば別でしょう。武家の娘ならばともかく、私のような者が武家に嫁ぐとなれば、信繁様の読みには反しますが、反対する者がいないはずがないのです。ましてやお家の再興などと話を持ち出せば、主君である昌幸様に話を通さない訳には参りません。
「いや、話してはいないが、問題はないだろう。山田家は安泰し、櫻井家が再興すれば、頼れる家臣が増える。お前が頷けば、すぐにでも父上に進言しよう」
「しかし、突然結婚と言われましても」
「もういい年だというのに、考えた事もなかったのか? 行き遅れとは呼ばれたくあるまい」