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たゆたう草舟

第2章 余計なお世話

 
 確かに私の周りの若い侍女達は、皆結婚し、真田家から暇をいただく者も沢山おりました。しかし私は、ちっとも結婚など考えていなかったのです。

「信明様の事も、私は存じ上げませんし……」

「ならば、一度会うと良い。会って話せば、実感も湧くだろう? よし、そうと決まれば早速日にちを決めなければな。今から話してくる、決まったら、お前にも伝えよう」

 信繁は一人で結論付けると、私を置いて去ってしまいました。しかし残された私に漂うのは、世話をしてもらえる喜びではありませんでした。

(結婚したら……今までのようには、働けなくなるかもしれない)

 脳裏に刻まれて離れないのは、八年前の月夜。あの頃より大きくなった今でも、縋る腕の感触は忘れられません。もっとも、昌幸様は没落する武田家を最期まで支え、さらには織田、北条、徳川と流れるように生き延びてきたお方。あの頃のような弱味は、きっともう存在しないのでしょう。声を掛ける立場ですらない奉公人の一人や二人、いなくなっても違いはありません。

 ですが私の中で、ここで働きたいと願う気持ちが薄れる事はありませんでした。
 

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