たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
ですが私と昌幸様の口論は、志信さんがクナイを天井に投げつけた事で止められてしまいます。
「人が一世一代の交渉をしている時に、痴話喧嘩とは良い度胸だな! この女の首、ここで刎ねてもいいんだぞ!?」
「小童には、まだ女の良さなど分からんだろうな。後数年もすれば、私の気持ちもよく分かるようになるさ」
「情欲など忍びには不要だ。遺恨の種にしかならないからな」
志信さんがどこからかまたクナイを出しても、昌幸様は飄々としたままです。そんな昌幸様に呆れたのか、志信さんは舌打ちすると、私の背中を押して昌幸様の方に向かわせました。
「約束は約束、違えれば恥を掻くのは家康様だ。非常に不本意かつ腹が立つが、人質は返してやる」
昌幸様は私が解放されると、すぐに手を縛る縄を解いてくださいました。
「だが、忘れるな。今回は遅れを取ったかもしれないが、家康様は最後に必ず天下人となる。その時、お前達真田は必ず滅ぼされるとな」
「三河の武士は犬のようだと言うが、忍びまで忠犬だな。面白い、お前真田に来ないか?」
「……もう一つ覚えていろ。俺は、お前のような人間が大嫌いだ」