たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
私に出来る事など些細なものですが、それが巡り巡って彼の力になれば、それで私は幸せなのです。信繁様の紹介をむげには出来ませんから、私はせめて信明様という人が、城での仕事に理解ある方である事を祈るしかありませんでした。
そして、それから二日後。私は新築されたばかりの武家屋敷に呼び出され、信繁様が紹介してくださった、山田信明様と対面したのです。
「お葉殿、お父上のご活躍は、父よりお聞きしています。拙者はずっと、櫻井殿を目標に研鑽して参ったのです」
信明様は、大柄で実直そうな方でした。逞しい体を折り曲げて、意外にも落ち着いた声で語りかけます。良さそうな方、というべきなのでしょう。しかし私の中では緊張ばかりが胸を占め、新たな感情に目覚める気配はありませんでした。
「それは、光栄な話です。父も喜ぶでしょう」
「お葉殿の事も、拙者はいつも見ていました。いつか夫婦となり、櫻井家を再興できたら、どんなに良いかと思い続けていたのです」
「私を……いつも?」
「ええ。きびきびと働く姿、馬の尻尾のように跳ねる髪、厳しい仕事でも笑みを絶やさない顔――きっと心も美しいと、そう思っておりました」