たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
「あの……今さらこんな事聞くのもおこがましいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、一言一句逃さず聞いてやる」
「昌幸様は、私を……気まぐれや遊びではなく、好いてくださると思ってよいのでしょうか」
すると昌幸様は目を丸くして、笑い声を漏らします。
「この流れで私の気持ちが分からないと言うなら、少し洞察力を鍛えた方がいいと思うぞ」
「いえ、あのだって、私のような人間が、昌幸様のお目にかかるなんて、夢じゃないかって思って……」
「むしろ、それは私が問いたいくらいだ。お前は私に好かれて、それでいいのか? 息子と同い年の女童に目をつけて、年端もいかないうちから陰で工作をしてきた人間だぞ。当主の命令だから断れない、と思うだけなら、今から逃げても構わないぞ」
言われてみれば、確かにそれは褒められた行為ではありません。しかし私はそれが昌幸様なのだと思えば、嫌悪などちっとも沸きませんでした。
「昌幸様のなさる事なら、なんだって受け入れられます。たとえ年が離れていようと、囮にされても、人質になっても大好きです」