たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
「時雨、実は私は影武者でな、本物の真田昌幸はあちらに……」
「色ぼけて見え見えの嘘つかないどくれ。あんたの行くべき所は寝所じゃなくて、むさっ苦しい武士の山の上。さ、いってらっしゃい」
「ちっ……時雨、お葉に余計な手出しをしたら、今度こそ許さんからな!」
時雨さんに書状を渡されると背中を押され、昌幸様はしぶしぶ仕事へ戻ります。時雨さんは昌幸様の姿が見えなくなるまで手を振ると、私の方へと向き直りました。
「せっかく想いが通じたのに、ごめんなお葉ちゃん。夜まで待ってもらってもいいかい?」
「お仕事ですから、それは問題ありませんが……あの、私、時雨さんとも一度きちんとお話がしたかったんです。お忙しいようですのでいつでも構わないのですが、時間を取れませんか?」
「ん? 忙しいのは親父殿で、俺じゃないよ。今でも構わないさ。まあ俺も、お葉ちゃんには謝らなきゃいけないと思ってたからね」
時雨さんのお言葉に甘えて、私はさっそくお話させていただく事にします。適当な空き部屋を借り、中へ入ると、まずは時雨さんからお話を始めました。