たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
時雨さんが疑うのも、無理はないでしょう。時雨さんが事情を知らないはずがないのですから、彼は私と昌幸様の出会いがいつだったかも知っているはずです。私の恋は、幼子が実の父と結婚したがる親愛と同じであると、そう思われても仕方のない話でした。
「十年前に惹かれたのは事実です。けれどその後も、私は昌幸様と会うたびに想いを募らせていました。これが間違いなら、世に恋などないでしょう」
「だろうね。お葉ちゃんの気持ちは、よーく分かった。ならいいんだよ、それだけ本気の相手なら、きっと幸せになれる」
「私の事を好きだと仰ったのも、私が揺らがないかどうか確かめたのですね。でもご安心ください。私には、昌幸様しかいませんから」
「よし、よく言った! これで俺も、安心できるよ」
やはり、昌幸様の言う通り、都合のいい偶然などそうあるものではないのです。時雨さんには申し訳ない事ばかりしましたから、私は正直安心しました。
「忍びの言葉は羽根より軽いからね、これからはあんまり素直に信じちゃいけないよ」
「分かりました、ありがとうございます!」