たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
やはり、時雨さんはどこか昌幸様に似ている気がします。それに、親父殿と呼び、友と話すような軽い口調。きっと彼と昌幸様には、私の知らない深い絆があるのでしょう。次にお話する時は、昌幸様とどんな思い出を築いてきたのか聞いてみたいと思いながら、私は時雨さんと別れました。
静かに積もる十年は終わり、軽やかな足音を鳴らす新たな年が始まりました。今年からまた年月を数え始め、十年後。その時も昌幸様の隣をたゆたう事が出来たらと、私はひっそりと願うようになっていました。
白装束に身を包んだ私は、少なくとも今は確かに、昌幸様の隣にいました。新年のお祝いも収まらないうちから、昌幸様は私を側室として迎えてくださったのです。
「それにしてもお葉の想い人が、父上だったとはな」
酒を呑みながらしみじみ語るのは、人質として過ごす京から駆けつけてくださった信繁様。彼は私を渋い顔で見つめると、大きな溜め息を吐きました。
「それは、口に出来ない訳だ。本当にこんな信用のない男の側女で構わないのか? お前ならば、相応の年頃の武士が正室に貰ってくれるだろうに」