たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
信明様は立ち上がると、私に手を差し出しました。大きな手は刀だこがありごつごつとしていて、先程の言葉が嘘ではないと教えてくれます。
「少し、外を歩きませんか? まだあちらこちらで作業中ですが、西の方にあるため池の辺りは静かで落ち着くのです」
家の中で閉じこもって話をしても、話題が尽きて気まずくなりそうでしたので、私は頷きました。しかしまだ差し出された手を取る資格はないと思いましたので、一人で立ち上がりました。
「……では、行きましょうか」
一瞬彼の眉が下がった事は、申し訳なく思います。しかし私にまだ、結婚という現実は重いものだったのです。
ため池の方へ向かう間、信明様はご自身の武勇伝や、私の父への憧れを話してくださいました。戦働きについて話している時の信明様は、素朴な瞳をきらきら輝かせて、とても楽しそうに見えます。大柄な男性なのに、その時ばかりは子どものようで、私も笑みを浮かべていました。
結構な距離を歩き、ため池が見えてくると、私はそこへ駆け寄りました。城の水をまかなう大きな池、しかしなぜか、私はそれを見て八年前の小さな池を思い出したのです。